適材適所とは、本当によく言ったものだ
今年4月、一人の男が「働かせてください」とやってきました。ある会社をクビになったような感じで、私に連絡をしてきました。私は彼をよく知らないが、彼は私のことを知っていたようでした。ずっとフリーターのような、ずっとアルバイトしかやってきていない30歳。いくら、私が懇意にしている方からの紹介だったとはいえ、「はい、わかりました」と採用は決められません。まして、正社員になったことがない人間は、修和塾では採用してはならないという教訓を得た今年の春でしたから、私は最初に彼に会った時に、まっすぐに「ウチで正社員として働いてもらうことは絶対にないよ」と言いました。
どんなに活躍してもダメです。正社員になったことがない中途採用は、採用しないと決めています。
でも、そのルールは、ウチのルール。彼にとってはかわいそうなので「1年で正社員の働き口を見つけてきてやる」と約束しました。その約束の意味は、ウチにいる間にしっかりと育成し、どこかの会社から「ぜひきてくれ」と言ってもらえるようにするということです。
夏まで、私の教室で働いてもらい、あれこれ教えていましたが、ひょんなことから教室の一つの責任者が辞め、8月の終わりから、やむなく彼を赴任させることにしました。しかし、教室長としてのキャリアはおろか、パソコンのスキルも信じられないくらい低レベルであり、何より塾講師としてしか頑張ってきていないので、授業しかできない。電話を取らせてもなんだか奇妙で。練習させたりして育ててから責任者のようなポストに就かなければなりませんが、背に腹は変えられず、「いってこい」と送り出しました。もちろん、責任者にするのは無責任なので、責任者にはしていませんが、一人で教室を運営することをお願いしました。
それは別の意味では、彼にとってはチャンス到来を意味します。他の会社であれば、まず教室を運営する立場に立てる人材ではないから。私も含めて「彼には無理だろう」という意見が大半を占めていました。
それが…、彼が着任して3ヶ月が経とうとしていますが、誰一人生徒がやめないのです。
彼は、経験が少ない分、仕事をする能力は低いのは否めない。でもそれをはるかに上回る「人が好き」という部分が圧倒的に優れていました。それは人に左右されるというデメリットもありますが、子どもたちを相手にするこの仕事では、人が好きである資質を持った人間は、このポストに適材適所というわけです。
だからこそ、力のない人は戦力にならないのではなく、その人がアクティブになれる環境を提供することで、いくらでも戦力となるのです。アクティブラーニングは、学ぶ人たち自らが行動して学ぶということではなく、その人が当事者となって、自分で物事を初めていく、動かしていくこと。そんな環境を作ってやることが、私たちの仕事です。
ぜんっぜん仕事ができないんですけどね。彼は。でも、よくやっています。人が好き!って気持ちって、こんなにも伝わるんだなと思います。