2017年06月01日 小さな野球部の物語 一覧に戻る
vol.20 試合に負けたときの声のかけ方

悔しい気持ちと一緒にいながら、その気持ちを終わらせる

ベンチを引き上げ、全員集合させます。何人かが泣いていました。
悔しかったんでしょう。
勝ちたかったんでしょう。
こういうとき、なんて声をかけるか、指導者として、その第一声にはとても繊細な配慮をします。あまりヤツらとかけ離れたことを言っても、これからのことを話しても、今の気持ちを整理できない状態では耳に入っていきませんから。

しばらく、静寂した時間のあと、座って下を向いている彼らに、僕も座って、話しかけます。

「悔しいなあ。悔しいよなあ。俺は、悔しいよ。勝てるって思ってたし、勝つ気満々だったからなあ、悔しいなあ。夏だったら、これで部活が終わりだ。3年間やってきたことが、これで終わりなんだよなあ」

すると、一人一人、またひとりと、どんどん泣いていくじゃありませんか。あれ?そんなつもりで話したわけじゃなかったんだけど、ああ、みんな、涙を堪えていたんですね。

「泣くのは悪いことじゃない。むしろ、泣くくらい悔しくて当然だ。優勝する気マンマンだったんだからな。けどな、これが現実みたいだ。俺たちは負けたんだ。俺が悔しいのはね、だって、あんなダラダラしたとこに負けたんだぞ。おまえらの方が、なんぼか頑張ってたと思う。けれど、俺たちは3度のチャンスをモノにできず、相手は俺たちのたった2度のミスをついて点を取ってきた。これが実力なんだ。ヒットは打てなくても、チャンスを確実にモノにできることが、実力ってことなんだよ。俺たちにはまだ、その力が十分じゃないってことだ、これが現実なんだな」

少しずつ顔が上がってきます。

「幸い、まだ春だ。これで終わりじゃねえ。一人一人、考えな。自分たちに足りないものは何か。どうしたら勝てるのか、俺たちは確かに成長していると思うけど、まだ優勝する力はないってことだ。何をしたらいいか、考えよう」

負けはしましたが、僕は、夏に向けて手応えを感じていました。これだけ悔し涙を流せるんですから。
他の中学校を見ても、負けてサバサバしているところがほとんどでしたからね。部活は、楽しみみたいに過ごしている生徒もたくさんいるからです。それだけ本気になって野球に取り組んでいるところは、今は、ウチだけだなと思いました。
夏までの練習の仕方によって、他の中学校を追い越せるんだなと、手遅れじゃないんだなと確信しました。

ってことは、ここからはある意味、自分たち指導者次第ってことです。やりがいがありますが、同時にそれはプレッシャーでもあります。